後輩や部下の育成に真剣に取り組むなら、何よりもまず相手を理解すること。
そして、無理に短所を矯正するのではなく長所を中心に全体のベースアップを図るつもりで教育すること。
相手を理解せずに自分の教育方針を押し付けること、短所を叩き直そうとすることは相手を否定することであって悪手になるのでオススメしません。
教育には信頼関係が大切で、信頼関係は相手を認めるところから始まります。
その信頼関係を結ぶことがトップクラスに難しいのがコミュ障。
そして信頼関係を築いた時に特定の分野で高い能力を発揮するのもコミュ障。
それはまるで迷宮の奥に眠る宝箱です。
コミュ障を知る
コミュ障がコミュ障と呼ばれる所以ですが、彼らは人と話すことが苦手です。
・シンプルに話すのが苦手なタイプ
・普通に話しているが内心はアワアワしてるタイプ
・他者に興味が無いタイプ
・挨拶や接客、業務連絡などの定型があるコミュニケーションは得意だが、日常会話になると話せないタイプ
などなど様々です。
誰しも場面によってはこういう経験があると思いますが、それが強く出るのがコミュ障だと考えています。
そして、その原因は人や集団から拒絶または否定された経験からくる潜在的な恐怖心にあります。
恐怖心が先立って自分を守ることに囚われてしまい相手のことが考えられなくなる。
相手の事を観察出来ない状態なので、コミュ障の人にとっては相手はずっと未知の存在です。
その結果コミュニケーションに自信が持てず、
・仲良くなりたい人ほど上手く話せない
・長期的に接していく相手だと上手く話せない
・少数のグループでは話せるが大人数だと話せない
など難儀な状態にあります。
人から拒絶されるのを恐れるあまり無意識にコミュニケーションを避ける傾向にあり、結果的に愛想の悪い印象を与えやすいです。
なぜそうなったかというと理由はシンプルです。
それだけ強い…あるいは数多くの拒絶や否定にあったことがあるからです。
コミュ障がなぜ拒絶されてきたか
コミュ障がなぜ拒絶されてきたかを話す前に、まず普通の人について話します。
普通の人は共感能力に長けています、相手に共感すし人に合わせていくことで同じ世界観を共有します。
本能的に集団をつくることを好み、何かに属していることに安心感を覚えます。
そして自分達の世界観に合わない異物を排除しようとします。
この普通の人達は、人間全体の70%~80%を占めます。
残りの20%~30%は普通の人達からすれば異物であって拒絶の対象となりやすくなります。
コミュ障の多くはこの中から生まれます。
普通の人とは違う特性を持っていて世界観が合わないために拒絶されてきた訳です。
ただ、普通の人も何らかの理由で拒絶を受けた場合はコミュ障になります。
また、逆に強靭なメンタルでコミュ障にならない人もいます。
拒絶される要因とその長所
●知能が高い人
人間の知能指数は100が平均値で20離れるとコミュニケーションが成立しにくいと言われています。
知能が高い人ほどコミュニケーションが難しくなり、普通の人と話す時は常に相手に理解出来るように考えて話す必要があります。
普通の人の中では常にストレスを抱えながら生きることになり、自然とコミュニケーションを避けるようになる傾向があります。
私の持論ですが人間は新しい世代ほど知能が高くなっていくと考えています。
世代間でコミュニケーションに難が出るのはこれが原因ではないかと推測します。
知能が高い人達は独創性が強く、普通の人達が思い付かないような斬新なアイデアを出します。
知能が高すぎる場合は斬新過ぎてふざけてるように思えるのですが、よくよく話を聞くと極めて合理的だったりします。
興味を持ったことに関しては異常とも思える集中力を発揮するので、博学だったり、変わった技術を持っていたりします。
反面、地味な単純作業や興味の無い事、理解者のいない集団ではパフォーマンスをうまく発揮出来ないという短所もあります。
非常にピーキーな能力ですが、うまくハマれば凄まじい成果を叩き出します。
●ASD(アスペルガー症候群)
このタイプを一言で表すと強烈な世界観を持つ人達です。
社交的になりやすいADHDと違って、自分のこだわりを追求するため周囲と馴染めずコミュ障になりやすい性質を持っています。
この人達の世界観を完全に理解することは不可能です。
ただ、断片的に理解していくことは出来るので、難しいですが信頼関係を築くことは可能です。
何にこだわりを抱くかは人それぞれで、強い正義感や平等意識、徹底的な完成度の追求、誠実なホスピタリティー、ブラックユーモアなどなど。
共通して言えることは頑なにこだわりを貫くということです。
精神的に未熟なASDには他人の価値観を認められないなど気難しい人も多いです。
しかし価値観に合致した仕事を頼んだ場合、驚くほどの完成度で仕上げてきます。
責任感の強いタイプだと非常に頼れる副官としてさらに仕事をまかせやすくなります。
また、その独特の世界観からクリエイターとしても優秀な人間が多いです。
●スキゾイド性パーソナリティー障害
スキゾイドはとにかく他人に縛られるのを嫌うタイプです。
自分の独立性を守るため他人と一定の距離を保とうとし、他人が距離を詰めようとすると本能的に避けようとします。
結果的に孤立するのですが、本人はあまり気にしていないことが多いです。
他のタイプと違いコミュニケーションが苦手なだけでなく、あまり人と関わるのが好きではないという性質があります。
特に自己主張もしませんが、一人行動が前提で生きているので色々とそつなくこなすことが出来る万能型だったりします。
自己顕示欲の強い人の攻撃の対象になりやすく、何かをあきらめたようにパフォーマンスを落とすのでフォローが必要です。
ビジネスライクな深入りしない関係を築いていけば良き同僚になります。
他者からの承認を求めておらず誉めたりしても困ったような反応をします。
●コミュ障だけど普通の人
普通であるにも関わらずコミュ障になる人は少なくないです。
コミュ障は主に学校生活で発症すると考えています。
誰もが経験する学校生活の人間関係は社会人より難しいです。
精神的に未熟な人間が一つのクラスに数十人押し込められればヒエラルキーが生まれ、必ず軋轢が生まれます。
マウントの取り合い、足の引っ張りあいなど大人の世界でも当たり前に起きていることが子供の世界で起きない訳がありません。
未熟であるがゆえに加減も分からず、とことん陰湿で残酷なものです。
何らかの理由でヒエラルキーを保てなかった人間が拒絶や否定で人に恐怖心を覚え、それを見た感受性の強い人間もまた恐怖心を抱いてしまう。
この人達は辛い経験から優しさを身につけています。
世の中で優しいと言われている人間の大半は気が弱いだけですが、コミュ障になるほど辛い体験をした人達が持つ優しさは本物です。
職場の空気を柔らかくする素質を持っているのですが、落ち着いていないと発揮出来ません。
しかし共感能力があり痛みを知る人間は、ケアに回ることで職場の寿命を長くします。
仕事を通して自己肯定感を高めていけば、全体のパフォーマンスを向上させるのに一役買うキーパーソンになることも。
信頼関係を築く指導方法を考える
冒頭でも話した通り信頼関係を築くには相手を理解して認めなければなりません。
あれもダメだこれもダメだと否定してくる人間を信頼したりはしませんし、コミュ障なら尚更です。
また友達になれという訳でもありません。
信頼とは何かに紐づいているものです。
「この人なら話しても大丈夫」
「この人なら出来る」
みたいに人の一部に対して信頼がついてきます。
お互いの人格や能力全てを信頼する訳ではありません。
お互いの一部分に対して信頼の糸を通すことで信頼関係が成り立ちます。
私が最初に得ていた信頼は「絶対に怒らない」でした。
感情を徹底的にコントロールして、どんな話も淡々と受け入れるようにしてきました。
「何を言っても怒られない」
こう思えるだけで相手は大分やりやすくなります。
もちろんデメリットもありますが全て無視します。
徐々に意見も言ってくるようになるし、失敗した時もヘタに誤魔化そうとせず報告してくる。
コミュ障は相手を観察することが出来ないため、こちらから行動と結果で示していかなければなりません。
問題を起こしても努めて冷静に、カウンセリングをするつもりで指導します。
私がよく使う手は、
「今回の件は○○が原因だったと私は思うんだ」
「××をすれば防げたとは思うけど、面倒だし毎回やるのは現実的じゃないとも思ってる」
「今回の件を教訓に職場で同じ問題が起きないようにしたいんだけど、ちょうど当事者だし何か案を考えてくれないか?」
「何日か時間をかけても良いから、じっくり考えて欲しい」
これをやると相手を萎縮させず反省とフィードバックを促すことができます。
相手は相手で、自分のミスのリカバーを提供出来るので若干気が晴れます。
改善案も自分で考えてくるので、人にやれと言われた対策よりは実施率が上がります。
ただ、これは一例に過ぎません。
私の細かい指導のやり方を挙げていったらキリが無いです。
指導方法は相手に合わせて調整しながら行うものです。
相手を理解していれば、相手の反応を予測出来ます。
それを利用して良い方向に誘導するのが指導なので決まった定型は無いです。
質問はLINEで
「分からないことがあったら聞け」
これは悪手です。
コミュ障は質問が出来ません。
「そんなことも分からないのか」
「さっき言っただろ」
と言われるのが怖いからです。
また、質問しようとしても上手く意図を伝えることが出来ません。
なので、私は質問をLINEで受け付けてます。
慣れないうちはLINEで機械的にやりとりをした方が相手は安心します。
「履歴がメモになるから質問はLINEで」
「以前に話したことの再確認でも良い」
「自分にとって重要ならどんな下らない事でも可」
「返答で解決すれば既読スルーでOK」
「LINEで聞くのが面倒な時は口頭で聞いて」
と伝えてコミュニケーションをしばらくとっていると、不思議と話しかけてくるようになります。
相手から連絡が来ない場合はこちらから連絡しますが、聞き方に注意します。
「何か分からないことある?」
「○○は明日までだけど大丈夫?」
「今どれぐらい進んでる?」
これらはストレスになるのでNGです。
LINEがストレスになると連絡して来なくなります。
あくまで業務連絡の形で、
「リマインド:○○は××で明日の何時まで」
「報告があるので△時に状況を教えて欲しい」
「現在、困ったことが無ければ既読スルーでOK」
みたいに送ります。
結構気を使いますが人の上に立つってそういうものです。
最後に
指導を行う人間は自分を良く見せようとしてしまいがちです。
でも、その気持ちは相手に見抜かれてしまいます。
人に物を教える立場で自己顕示欲が強いと結構カッコ悪いです。
信頼関係は破綻し、指導自体もうまくいかなくなるので気をつけましょう。
大事なのは自分の役割と相手に向き会う気持ちです。
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