(前編)の続きです。
前編より話が難しくなりますが、嫌がらせではありません(笑)
射撃計算

間接照準射撃を正確に行う上で必須となるのが射撃計算です。
地球上のあらゆる地点は「座標」という数字で表すことが出来ます。
例えば東京タワーの座標は
・北緯35度39分31秒
・東経139度44分44秒
と表します。
軍用の座標とは違うのですが、意味合いは一緒です。
軍では階級が上がるほど座標の知識が必要になってくるのですが、特に砲兵にとって座標は重要事項です。
例えば、味方の火砲の座標と敵の火砲の座標が分かっていれば計算によって距離と方角を知ることが出来ます。
つまり敵の座標さえ分かれば砲撃できるわけです。
敵の座標を知る方法は交会法とか色々あるのですが、おそらく軍事機密もあるので省きます。
射撃に使う計算は関数を使うのでかなり複雑です。
観測手をやるうえでこの計算が出来る必要があるのですが、対数表を使って手作業でやると複雑だし時間もかかるし間違えやすいし効率が悪い。
そのため普段はコンピューターで自動計算するか、アナログなら関数電卓を使って計算します。
間接照準射撃の黎明期はそんなものは無かったので、当時の砲兵は大変だったろうなと思います。
また、自陣の座標を測定するために測量作業を行います。
どんなに正確に計算しても測量作業の精度が悪ければ命中率が下がります。
そのため測量作業はかなり精密に行われるのですが、時間もかけられないため職人芸の域にあります。
作業だけでなくやはり関数を使った計算も行うため、専門の兵士がいたり観測手が兼務したりします。
多少の誤差は物量があればカバー出来るので、米軍などが保有する高精度のGPSがあれば測量作業をしなくてもどうにかなったりします。
…が、そんな軍隊は米軍くらいなので、やっぱり測量は必要です。
正確無比な砲撃は、砲手や測量手の職人芸によって支えられていると言っても過言ではありません。
榴弾砲

前編でも軽く説明しましたが、榴弾とは弾自体に火薬が仕込まれた砲弾です。
信管によって作動が変化し、接触型の信管なら着弾の瞬間に、時限式信管なら時間経過で爆発します。
接触型の信管は主に固定目標に対して使い、たまに車両や歩兵部隊を狙いうちます。
時限式信管は空中で破裂させて広範囲に破片を撒き散らし、主に歩兵に対して有効なダメージを与えます。
榴弾砲はこれらの弾を使いながら火力支援を行う火砲です。
機関銃や障害物でガチガチに固められた陣地を歩兵部隊だけで攻撃することは困難で、甚大な被害が予想されます。
そこで榴弾砲による砲擊で敵の陣地をボコボコに破壊し、歩兵部隊の突撃を支援します。
また、味方の陣地が攻められているときは、敵歩兵部隊に対して突撃を破砕する砲撃を行います。
火力によって味方部隊をサポートするから火力支援と呼ぶわけです。
榴弾砲は攻城、野戦、敵砲迫や軽装甲車両の破壊などをこなせるハイブリッドな火砲です。
初期の榴弾砲の射程は2km程度でしたが、近代の性能では30km以上先まで砲撃することが出来ます。
自分が砲兵だったこともあり、この榴弾砲の恐ろしさは身に染みています。
歩兵になったつもりで想像してみて下さい。
敵の榴弾砲が射撃をしても、その姿も音も認識出来ない。
高速で飛来する砲弾は目視が難しいので、自分がいる地面が突然爆発したり、空中で爆発したと思ったら50~100m四方の味方が一斉に倒れたりする訳です。
陣地に籠っていても飛来する砲弾は止めることが出来ないので、砲撃が止むまで犠牲を出しながら耐え続けるしかありません。
味方からは「戦場の女神」と呼ばれる砲兵は、敵にとっては悪夢でしかありません。
野戦特科

自衛隊には野戦特科という職種があるのですが、名前が違うだけで砲兵そのまんまです。
軍隊色を消すためにそう名乗っているのですが、私は特科という名前が紛らわしくて好きではありません。
私はそもそも軍隊に興味が無くて、警察でズタボロになった自分を鍛え直そうと考えて自衛隊に入隊しました。
どうせなら敵の銃弾をかいくぐって突撃するようなハードなことがやりたかったので、野戦特科という名前を聞いた時に野戦特化と勘違いした私は「これだ!」と決断します。
一応、職種の説明もあったのですが説明が下手過ぎて「機甲科は戦車」くらいしか分かりませんでした。
なんやかんや砲兵も面白かったのですが、名前のことはいまだに根にもっています(笑)
野戦特科に配備されている火砲はFH70と呼ばれるトラックで牽引する榴弾砲が一般的に普及しています。
私がいた時代の最新の火砲は99SPと呼ばれる自走砲で、FH70とは次元の違う性能を有しています。
砲手や測量手、観測手目線だと色々な問題が解消された素晴らしいものなのですが、一部の部隊にしか配備されていませんでした。
また自衛隊にはMLRSと呼ばれる多連装ロケットを搭載した車両があり、これも野戦特科が運用します。
榴弾砲とは比べ物にならないぐらい広範囲を攻撃出来る兵器だったのですが「大量破壊兵器」と認定されてしまい、今では長距離誘導弾でピンポイント爆撃をする兵器として運用されています。
観測手も射撃指揮も関係なく新隊員はまず自分の部隊の火砲の操作を覚えます。
兵の互換性を持たせるためなのかは分かりませんが、そこで火砲の危険性について学べるので重要な教育です。
「ヨルムンガンド」という漫画で火砲を撃つ際
「耳を塞いで口を開けろ!」
と叫ぶシーンがあります。
あれをしないと鼓膜が破れたり、衝撃で内臓が破裂することがあるのでその対策です。
富士の総合火力演習を見に行ったことがある人は、空気がぶつかってくるような衝撃に驚いた人もいるでしょう。
火砲を扱う隊員はその何倍もの衝撃を受けます。
それが日に100回近くあったりします。
慣れないと体力を消耗してヘトヘトになるでしょう。
特科隊員はガタイの良い人が多いイメージです。
実際、基本的には重労働で最大筋力が必要になる場面が多いので、自衛隊の中でもパワー型の職種です。
反面、地味に繊細な作業や頭を使う作業も多いので
「普通科はキツそうだから特科にしよう」
という理由で選ぶと100%後悔します(笑)
凄くシンプルに例えると、マラソンと引っ越しみたいな力仕事、どっちをキツいと感じるかってイメージです。
まあ、時代は砲兵を必要としなくなりつつあり、特科は縮小傾向にあるので元々オススメはしません。
ただ、いずれ無くなる職種にいたというのは感慨深いものがあります。
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