私の記事は自衛隊での経験談が多くなるので、ここらで自衛隊の話をしておこうと思います。
多分、知らない単語が出てきてポカンとしている人も多いのではないでしょうか?
入隊者向けではなく、私の記事に限らず自衛隊系の話を読む人向けの話です。
階級
自衛隊の階級は大きく分けると「士」「曹」「幹部」に分かれていて、陸・海・空によって呼び方が変わる。
陸の「士」を「陸士」、海の曹を「海曹」というように、呼び方に陸・海・空のいずれかが付く。
さらに階級を細かく分けると
●「士」…兵卒、年数で士長まで昇進する
・2士 「二等兵」通常の入隊はここから始まる
・1士 「一等兵」
・士長「上等兵、兵長」曹選抜試験が受けられる
●「曹」…下士官、士長から選抜で昇進
・3曹「伍長」私の階級
・2曹「軍曹」技官はここから始まる
・1曹「軍曹」
・曹長 一部が准尉に昇進、幹部はここから始まる
●「幹部」…一般試験か、防大卒、曹からの選抜
・准尉 士・曹からの叩き上げがなる名誉階級
・3尉「少尉」幹部合格者は曹長からここに昇進
・2尉「中尉」
・1尉「大尉」
・3佐「少佐」
・2佐「中佐」この辺からは防大卒のみ昇進可能
・1佐「大佐」
・将補 「少将」
・将 「中将」
・幕僚長「大将」
准尉や曹長や士長、将補より上以外は、「◯等陸◯」みたいに呼ぶ。
空の2士なら「2等空士」、海の3曹なら「3等海曹」といった感じ。
その他で陸の場合は、陸士長、陸曹長、陸准尉、陸将補、陸将。
幕僚長は陸上幕僚長と表記する。
階級ごとに役割は変わり、幹部・曹・士で待遇も仕事内容も大きく変わる。
一般企業に例えると
「士」 契約社員、現場
「曹」 正社員、現場・事務
「幹部」総合職、事務・管理職
という感じ。
曹・士だと「士」までが下積みで、「曹」から責任のある仕事を振られるようになる。
士から曹への昇進は、入隊区分にもよるが2年9カ月~8年ぐらい。
曹になると、人によってはアホみたいな業務量になる。
ゆえに曹になるのを嫌がる士も多い。
マトモな奴ほど曹にならず、辞めてしまう率が高い。
3曹から幹部の選抜試験が受けられるが、希望者が少な過ぎて強制受験になった。
辞める場合、大体は陸士で辞めるので、曹の中途退職は少ない。
問題を起こして辞める場合もあるので、私も転職先の元自衛官にはメチャクチャ警戒された。
幹部だと2尉までが下積みで、陸の場合は特に2尉がキツイ。
殺人的な量の事務をやりながら現場にも管理職として顔を出すので、壊れる人もいる。
ゆえに曹は幹部になりたがらない人が多い。
獣とドカタのハーフみたいな隊員が多い私の部隊で、理性的な人が多いのが若手幹部なのだが…1尉になる前に辞める人も多かった。
1尉くらいから幹部らしい扱いになる。
防大卒以外の幹部が2佐より先へ行くことは滅多にないが、少数の昇進例はある。
幹部の昇進速度は防大の成績でほぼ決まるので、必ずしも優秀な人間が出世するわけではない。
部隊長になる幹部がマトモか否かは運次第。
曹士が敬意を持つほど優れた幹部もいるし、逆も然り。
曹士に並々ならぬ憎しみを抱いている幹部もいるし、逆も然り。
ゆえに曹士の間では「部隊長ガチャ」と呼ばれたりする。
職種
自衛隊は様々な業務や役割が職種として分けられている。
階級に関わらず、基本的に自衛官はどれかの職種に属する。
職種は専門性が高く、自分の職種以外については全く分からないのが普通。
隊員向けの職種説明も何度かあったりはするが、無駄にカッコつけたがるうえに内容が薄いからイマイチ分からない。
ぶっちゃけた話、他職種については自衛官より自衛隊マニアの方が詳しいぐらい。
私は広報官をやっていたので、まだ他職種について知ってはいる方だが…
それでも他の自衛官よりは詳しい程度で、ネットや本よりはマシというレベル。
適当な事を言うと専門職の人が怒るしTwitterで袋叩きにされた人もいるので、大まかに説明する。
陸上自衛隊には16の職種があり、大きく分けると2つ、戦闘を行う「戦闘職種」と戦闘部隊のサポートを行う「後方職種」がある。
戦闘職種は歩兵や戦車、砲兵やヘリコプターなどなど、自衛隊ならではの職種に分かれる。
後方職種は輸送や衛生、通信や会計などなど、一般社会でも潰しがきく職種に分かれる。
私は砲兵…戦闘職種の中の野戦特科という職種に属していた。
戦闘職種の隊員の中には、後方職種を馬鹿にする…いわゆる「戦闘職種イキリ」を行う者もいる。
が、前述の通り他職種については分からないものなので、想像で言っているだけに過ぎない。
体力を使う職種もあれば頭を使う職種もあり、両方使う場合もある。
職種の中のさらに細かい役割によっても、やる事は全然違う。
何を得意とするかという話なので、職種に優劣は無い。
私は体力も頭も使う役割だったが、西方普通科連隊に行ったら毎日ゲロを吐くだろうし、中央会計隊に行ったらストレスでハゲると思う。
本当に適性の一言で片付く。
強いて言えば、陸士で辞める気なら後方職種の方が後々役に立つ。
航空自衛隊は、主に航空機で出動する部隊と基地の業務を行う部隊に分かれる。
航空機のパイロットや救難活動など出動する職種と、航空機の整備や管制、基地の警備や電気工事を行う部隊などがある。
空自は楽だという変な誤解があるが、体力を使う職種が少ないだけであって技術的な難しさがある。
一方でメディックと呼ばれる空自のレスキューは、陸自の空挺隊員が下を巻くほどの体力を誇る。
航空機や飛行基地に纏わる業務がメインとなり、軍隊っぽい泥臭さが無い職種が多い。
それゆえ、自衛隊らしい仕事がしたくて辞める隊員が一定数いる。
空自の中では基地警備が唯一、自衛隊らしい仕事と言われている。
その分、社会に出た際には潰しがきく職種が多い。
海上自衛隊は主に艦船の搭乗員と基地の業務を行う隊員に分かれる。
職種は艦船や基地のみのものと、艦船と基地両方にまたがるものもある。
例えば給養と呼ばれる職種は、基地や船のコックとして働いたりする。
海自の食事が美味しいのは有名だが、楽しみの少ない艦船で飯がマズイと荒れるので必然的に上手くなるらしい。
艦船乗りは給料が多いので陸や空から羨ましがられるが、海上で隔離された生活を嫌って基地業務を希望する隊員も多い。
艦船乗りや基地業務以外には研究施設の勤務もある。
潜水職種に絡む技術の研究では1ヶ月近く水に沈められたコンテナの中で生活したりする。
艦船搭乗員になる職種は、機関や航海など艦船の運用に関わる職種の他、経理など事務系の職種もある。
陸・海・空の自衛官が集まる組織として、地方協力本部がある。
各都道府県に一つあり、自衛官の募集や退職者の支援、自衛隊PR、民間イベントへの参加など、採用と広報を兼ねた業務が多い。
本部要員と広報官に分かれ、本部要員は主に採用試験や事務、広報官は各都道府県内にある一部エリアの採用業務を担当する。
広報官は陸・海・空の隊員から選ばれるか、希望してなるもので、最初から広報官になることは出来ない。
広報官は入隊者とその親族、学校教員、市議や県議、その他様々な企業などの一般人と接するので、わりとマトモな人じゃないとマズイ。
ある程度のトーク力や一般常識があり、社交性や機転が求められる。
なので、根本的に適性のある人間は少ない。
部隊で大きい顔をしていた曹が秒で病み、秒で消えたこともある。
必ずしも自衛官として優秀な人間がなるというわけでもない。
常識人や人格者ばかりというわけでもない。
結局のところ適性のある人間を集めるのが難しいので、広報官もピンキリになってしまう。
やる気があれば新規開拓で営業かけたり、高校や大学で講演したりと、ある程度の裁量で動けるから楽しい。
逆にやる気が無くても、適性があれば最低限の仕事だけして気楽に過ごせる。
ただし、入隊者が見つからないと詰められる。
地方協力本部は入隊者を「数字」として見がちで、圧力がかかるため広報官にも「数字」として考える人もいる。
しかし、上手くいくのは入隊者を一人の人間として扱う広報官。
上からの圧力をかわしながら、如何にして入隊者との適切な距離感を保てるか…が広報官の力量となる。
適性が無いとひたすらキツイ、人見知りや内弁慶には地獄。
生活
入隊後、新隊員教育隊から自衛隊生活が始まる
陸・海・空や入隊区分によって期間に差があるが、概ね半年ぐらい教育隊に在籍する。
基本教育→専門教育という流れで行われる。
海はちょっと特殊。
私は陸の人間なので、陸について話す。
陸の場合は前期3カ月で陸上自衛官の基礎を学び、そこで職種と配属先が決まる。
後期3カ月では配属先で職種の専門教育が行われる。
新隊員教育隊では、休みの日以外は分単位でスケジュールが進むので時間に余裕が無い。
後期教育が終了すると部隊に配属される。
ここも運次第で「部隊ガチャ」と呼ばれる。
自衛隊は全体的に共通する風習や雰囲気があるが、職種や駐屯地、部隊や班・小隊によって微妙に異なる。
極端な話、人を殴る部隊と殴らない部隊があるし、品位のある部隊もあれば犯罪者予備群みたいな部隊もある。
私の知る限りでは普通科、野戦特科、施設科は荒くれ者が多いイメージ。
合うか合わないかはまさに運。
朝6時に起床し、10分後に舎前に整列、「点呼」と呼ばれる人員が揃っているかの確認を行う。
8時~17時まで仕事、昼休憩は1時間。
残業をしても、特別職国家公務員には残業の定めは無いので残業手当も無い。
夕方以降は基本的にフリーになる。
教育隊では寝る直前までスケジュールが組まれているので、部隊配属後は時間が余り過ぎてポカーンとしてしまう。
22時半に夜の点呼、23時消灯。
外出は大体、平日は17時以降から点呼まで、休日は朝と夜の点呼の間。
部隊によって躾の時間があり、門限が変わる。
陸曹になると時間が伸びる。
外泊も出来るが、新隊員や卒業して間もない陸士は厳しく制限される。
「残留」と呼ばれる半ば形骸化した制度があり、残留に当たった隊員はその日は外出が出来ない。
休みの日に当たると最悪だが、陸士のうちは結構当たる。
無駄にストレスが溜まるので撤廃を求めたが、無理だった。
なお、外出する度に申請をする必要があり、地味に面倒臭い。
無断外出や帰隊遅延と呼ばれる門限破りは、バレるとそこそこ重罪。
なので、外出時はとにかく時間を気にする。
交際相手がいても、理解を得られないとトラブルになる。
私の場合は、やたら浮気を疑われた。
かといって自衛官同士で交際をすると、駐屯地で噂になったり、他の隊員から恨まれたりと別の問題も発生する。
2等陸曹以上で30歳を越えるか、結婚をすると駐屯地の外に住むことが出来る。
しかし、自衛官の破局率は高い。
士から曹に上がる時は陸曹教育隊という部隊で半年間訓練する。
新隊員教育隊は分刻みのスケジュールだが、陸曹教育隊は秒刻みのスケジュールになる。
厳しさも跳ね上がり、たまに脱落者や自殺者も出る。
私見だと警察学校と同じくらいの厳しさだが、体力は陸曹教育隊、教官の圧は警察学校の方が強い。
曹に上がると様々な業務を課される。
私は人事の一部、中隊及び隊の食事や戦闘糧食の発注、器材の管理、営内班長と呼ばれる部下の管理指導員などなど。
通常業務も容赦なく課せられるので、自分の業務は基本的に残業。
仕事をしたくないオッサン達の押し付けによって業務が増えていく。
一人でやっていたから演習や災害派遣に参加する度にパンクする。
非合法な手段でこなしていたため、増員を求め続けたが却下され続けた。
後々、オッサン達の印象操作で「楽な仕事を大変そうに見せている」と思われていたことが発覚する。
私が部隊を離れる時、私のポジションに人員が4人ついて殺意を覚えた。
しかし、私よりも酷い状態の先輩もいて、その先輩はある日の外出から行方不明になった。
休日に働くと代休が貰えるが、部隊によっては使えないままになる。
年々業務は増え続けており、陸士ですら代休が20日分以上溜まったりもする。
勝手に代休を使うと怒られるが、部隊に都合良く代休を取れるタイミングはまずない。
有給もあるが、代休が減らないので使うタイミングが無い。
明らかに労働環境が悪いせいで隊員が辞めていくのだが.,.
なぜか上層部は厳しくすれば隊員は辞めないと考えていて、状況を悪くしようとする。
隊員のメンタルヘルスのために定期的に鬱病チェックシートの提出が義務付けられているが、正直に書いて引っかかると怒られる。
なので、隊員は不自然なくらい精神面は健康という形になっている。
必然的にヤバい状態の隊員のケアは上司の能力に依存するが、いまだに「鬱は甘え」という価値観が強いので回復は厳しい。
メンタルヘルスの知識も浅いので、休職中の鬱病の隊員を、週に一度は部隊に出頭させたりして悪化させる部隊も多い。
なので、病んだ隊員には退職をすすめるが、部隊によっては退職希望者に対して悪質な引き留めをしたりする。
私も退職の際にかなりモメたが、その理由は
「民間は安定していないから辞めさせない」
だった。
陸士は転職先や専門学校などの進路が決まっていないと退職させて貰えない。
自衛隊に恨みを持って辞める隊員も多く、反日になる者もいる。
そのため、下手に自衛隊賛美をすると元自衛官の反感を買いやすい。
かといって自衛隊や職種を馬鹿にするのも反感を買うので、この辺は難しい。
よく知らないなら触れない方が吉。
一方で、部隊に馴染むと閉鎖社会ならではのバカさ加減が楽しい。
イタズラや悪ふざけは自衛隊ならではの楽しみでもある。
普通じゃない奴が多いので、普通じゃないことがよく起こる。
元自衛官同士だと笑い話に事欠かない。
普通に一般人と話せる人でも、元自衛官同士の会話になるとIQが20ぐらい下がる。
理不尽への耐性が強いので、普通の人がドン引きするようなブラックジョークや過激なイタズラも笑い転げる。
慣れた奴はリアクションも一流。
元自衛官同士の親近感は、この特殊さから来たりする。
崖から車で落ちたことが笑い話になるのも、自衛隊ならではだと思う。
一般人なら心配が先に来るが、頑丈な自衛官だと笑いが先に来る。
良くも悪くも一般社会とはかけ離れた場所である。
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