作家ドストエフスキーが説くキツイ拷問が「穴堀り」でした。
何かの比喩ではなくシンプルに穴を掘らせる事です。
半日かけて穴を掘らせて、半日かけて掘った穴を埋めさせる。
毎日その繰り返しです。
人は目的も無く、生産性の無い作業に対して苦痛を感じやすく、それを強制されると拷問になります。
実際に、ナチス親衛隊の将校ラドムスキーが強制収容所の士気を下げるために行っていたそうです。
「何のためにやるのか」
これは非常に重要な部分です。
今回は、そんな感じの話です。
意味を感じない作業
若い人が自衛隊を嫌になる理由の一つが無意味な作業や非効率な作業です。
実はそういう作業が結構多いんですよ。
例えば、ヒエラルキーの低い陸曹は上に意見を言う事を怖がるので、どんなに効率的な案を出されても自分の案に拘ります。
車の使用を上に打診したくないから、徒歩で重い物を運ばせたりしますね。
また、普段から仕事をしていない陸曹が「仕事をしているアピール」のために人を集めて無意味な作業をやらせる。
棚から物を出して元の位置に戻す…みたいな事を延々とやらせたりします。
そういう陸曹の下についた時、部下のストレスは凄まじい事になる。
「無駄」がハッキリと分かる人ほど苦痛を感じやすく嫌になります。
かといって自衛隊に穴堀り拷問の概念を知っている人は少ない。
説明しても
「根性が無いだけ」
で理解されないまま片付けられてしまいます。
効率化はストレスの緩和になります。
ストレスの緩和は、利益を出す事と同じくらい価値があるのですが…
効率化の価値を知る人が少なく、大抵の自衛官には効率化自体が「意味の無い作業」になってしまうので、誰もやりたがらないわけです。
また、自衛官の大半は「戦争なんて起きない」と考えています。
国際情勢に目を向けていれば多少なりとも戦争のリスクがある事は分かるものですが、自衛官の多くは外の世界に興味を持たないんですよ。
そんな自衛官にとって一番の穴堀拷問は「訓練」です。
起きないと思っている戦争のために苦しい思いをして訓練する。
そりゃ苦痛ですよね。
本気で訓練をしている隊員も、張り合いの無い空気に嫌気がさして辞めてしまう。
私自身、10年もいればモチベーションが下がってきました。
有事の際は陸曹として自衛隊に戻ろうかと思っていますが、同じ事を続けたいとは思わないですね。
終わりの見えない作業
穴堀拷問のもう一つのポイントが「終わりが無い事」です。
自分の意志で終わりを決められず、いつ終わりなのか分からない。
これが精神的にキツイ。
今は体罰になるから無くなりましたが、自衛隊の「反省」では無限に腕立て伏せをしたりしました。
終わりが見えない中で腕立て伏せの姿勢を何時間も維持し続けます。
姿勢が崩れたら蹴り飛ばされ、全体にペナルティが課される。
教官の気まぐれで号令がかかる度に、一斉に腕立て伏せをする。
私が経験した最長は、陸曹教育隊で3時間半、回数は620回でした。
しかも万全の状態ではなく、半日かけた戦闘訓練が終わって疲労困憊した状態でのスタートです。
体力もさる事ながら、終わりが見えないから精神的にもキツイ。
後から聞いた話では
「時間が余ったから難癖をつけてやらせた」
という理由で、それを聞いた時が一番心が折れそうでした。
まあ、これは理不尽に耐える訓練なので拷問ではないですが、自衛隊以外ではパワハラでしかないですね(笑)
基本的に楽しい事以外においては、終わりの時間を決めたり「これが終われば終了」みたいなタスクを設定する事が大切です。
終わりが見えない残業…みたいな状況は、モチベーションが著しく低下します。
「会社が厳しいから耐えてくれ」
と言われて、環境の悪い中で働き続けても…
一向に良くなる兆しが見えなければ心が折れます。
希望が見えないと人は頑張れない。
終わりを設定する事は自分自身のためでもありますが、特に人の上に立つ時は要注意です。
何のためにやるのか
穴堀り拷問を避けるために必要なのが「何のためにやるのか」を考える事です。
例えば、私のブログは
「クソみたいな状態にある人を何とかしよう」
から始まりました。
誰かの支えになっている事を知っているから、大した収益にはならなくてもモチベーションが保てています。
目的が無かったら続いていないです。
まあ、人の悩みを知る機会が減り、メジャーな悩みも書き尽くしてしまったので…書く事が無くなってきましたけどね。
また、会社の仕事みたいに課される事だと少し変わってきます。
その仕事を行う上で、やり方を覚えるだけでなく分析をする。
自分の仕事が組織にどういう影響を与えて誰のためにあるのか。
それによって自分は何を得られるかのか。
このぐらいまで考えられると仕事の意味を見いだせるようになります。
何も考えず言われた事だけをやっていると、意味も目的も分からないままです。
それは、自分から穴掘り拷問にしてしまっている事になります。
私も新人警察官だった頃、何も分からない状態で仕事をしていると1日がスゲー長く感じて苦痛でした。
仕事の内容や目的を理解して、こなす必要のあるタスクが見えてくると楽になった。
目線が広くなり、自分1人ではなく組織全体として物事が考えられるほど穴掘り拷問が無くなっていくものです。
よく分からん事をやるのは苦痛だし、疲れます。
そういう時は「何のためにやるのか」を理解さえすれば、わりと気持ちが楽になるわけです。
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